サイロ化されたIT関連の相談窓口を一元化
ITSMツールの内製化、3.5万人のトラブル対応の迅速化とサポート品質の向上を実現
株式会社JALインフォテック
航空輸送サービスの安全性と快適性を支えるJALグループのIT中核企業として、絶えず革新を求めてきた株式会社JALインフォテック。同社はITサービスマネジメント(ITSM)の効率化・統合化を目的に、問い合わせ管理・インシデント管理ツール「Jira Service Management(ジラ・サービス・マネジメント、略称JSM)」を導入した。リックソフトの支援を受け、JSMでITILに沿ったITSMのシステムの内製化と、問い合わせ窓口の統合を実現。コストを当初の100分の1近くに抑えながらも、内製により現場の変化・ニーズに素早く適合するワークフロー設計が可能となり、社内のITリソースの最適化やエンドユーザーの満足度向上にも大きく寄与している。導入の経緯や得られた成果について、プロジェクトのキーパーソン達に話を聞いた。
JALインフォテックは、システム開発とソリューションの提供を手掛けるJALグループのIT中核会社。40年以上にわたり航空業界で培った世界屈指の技術力を礎に、安全で快適なフライトを提供している。航空券の予約、空港での手荷物預かりや自動チェックインシステムをはじめ、保安検査場や搭乗ゲートで使われるシステムやパイロットが活用するブリーフィングシステムなど、航空業界周辺をメインフィールドに、基盤構築からアプリケーションまで、高品質なシステムを開発、運用する。
(取材対象者)
株式会社JALインフォテック
サービス事業本部 ITサービス事業部 サポートセンター ユーザーサポートグループ長
大西 徹氏
株式会社JALインフォテック
サービス事業本部 ITサービス事業部ビジネスサービス部 第2グループ マネージャー
植松 大輔氏
株式会社JALインフォテック
サービス事業本部 ITサービス事業部 サポートセンター ユーザーサポートグループ マネージャー
倉光 由紀子氏
株式会社JALインフォテック
サービス事業本部 ITサービス事業部 旅客サービス部 第1グループ マネージャー
池田 有花氏
日本が世界に誇る航空会社、JALグループのIT中核企業として、安全・安心かつ快適な航空輸送サービスを長年にわたり支え続けているJALインフォテック。同社では、ツアー関連をはじめJALグループ以外の顧客に対しても、個々の課題解決を支援するシステムインテグレーターとして、グループ内で培った知見をもとにソリューションを提案・提供し続けている。
また、JALグループはIT戦略として、顧客体験(Customer Experience:CX)と従業員体験(Employee Experience:EX)の価値を最大することを目指したDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を掲げている。その柱の1つが、2017年から当時のオンプレミスを中心とするITの課題を一掃する「ITグランドデザイン」である。これに基づき、2021年からDXの推進を本格化させ、ITグランドデザインプロジェクトを軸とした多様なITサービスやソリューションを展開している。
ITサービスマネジメント(ITSM)ツール導入による問い合わせ業務の効率化も、そのプロジェクトの一つである。かつてJALインフォテックでは、グループ全体のユーザーからの問い合わせやトラブル対応が、メール、電話、Excelといった多様な方法で分散管理されており、窓口も情報も一元化されていなかった。
ヘルプデスクITサポートチームを率いる、JALインフォテック サービス事業本部 ITサービス事業部 サポートセンター ユーザーサポートグループ長の大西 徹氏は、当時の課題について次のように振り返る。
「早い段階から様々な業務システムを開発しリリースを繰り返してきたため、ヘルプデスク窓口はシステムごとにサイロ化しており、統合は後手に回っていました。JALグループにおける社内向け業務システムのユーザーサポート業務を担う我々としては、数百にも及ぶ膨大な数のヘルプデスクチームを擁する必要がありました。ユーザーの方々からも、“どこに問い合わせたらいいのかわからない”といった声も聞こえていました」(大西氏)
JALグループの航空機整備システムの維持管理保守を担う、JALインフォテック サービス事業本部 ITサービス事業部ビジネスサービス部 第2グループ のマネージャー、植松 大輔氏はこう続ける。
「ヘルプデスクITサポートチームが管轄する“公的な”ヘルプデスク以外にも、例えば我々のチーム内にも航空機整備システムに関するヘルプデスクが数多く設けられていました。その総数は数百という単位に及びます」(植松氏)
ユーザーサポートグループのマネージャーを務める倉光 由紀子氏は、「ヘルプデスクの人材が縦割りとなっていたため、あるチームの業務が逼迫していても他のチームではサポートできない、といったリソース調整上の問題も生じていました。サポート品質のバラつきだけでなく、人的にもコスト的にも無駄がありました。縦割りがゆえに、ユーザーを待たせることもあり、課題解決に膨大な時間を要していました」と語る。
そこでJALインフォテックでは、縦割りのヘルプデスクのナレッジを1つのDB(データベース)へと統合し、サービルレベルの向上と均一化、さらには人的リソースやコストの最適化を目指し、ITSMツールの導入へと舵を切った。
当初、JALインフォテックは、外部コンサルティング企業の提案を受け別のITSMツールを検討していたものの、最終的な調達予算が想定を超えることが判明した。そうしたなか、技術品質戦略本部からJira Service Management(JSM)の提案を受けたという。
「JSMは、当初の予算の100分の1近い費用ながら、我々が必要とする機能を十分備えておりました。ユーザーの方々にも満足してもらえると感じ、まずはトライアル版でその性能を検証してみることにしました。実際に使ってみると、JSM自体がITIL準拠のシステムなので、用意されているテンプレートで簡単にある程度構築できました」(大西氏)
JALインフォテックが、JSMの提供元として選定したのが、リックソフトであった。
「リックソフトを知ったきっかけは、独自サービスの企業別研修 ”Jira 入門研修”でした。アトラシアン製品に対する専門知識と、それに裏付けされた豊富な実績を評価し、リックソフトを選定しました。サポ―トサービス“サポートプラスPro”を併せて活用し、導入前のトレーニングから導入後のフォローアップに至るまで一貫したサポートを受けることのできる点も評価しました。こちらの質問に対し、チャットやWeb会議などのツールも駆使して迅速かつ的確に回答してもらえるレスポンスの速さも、他の代理店にはないリックソフトの魅力でした。もしこれらがなかったら、ITSMシステムの内製化は実現できなかったことでしょう」(大西氏)
JSMの導入プロセスでは、JALインフォテックの各部署からの具体的なニーズと課題が集約されるとともに、ヘルプデスクチームではリックソフト独自のeラーニング動画等を用いたシステムの学習も進めていった。
「これまでシステム開発はやったことがなく、初めてのことだらけ。当初はわからないことだらけでしたが、eラーニングで自分のペースで見返して、設定を進めることができました」(倉光氏)
「リックソフトが提供するeラーニングの内容は非常にわかりやすく、我々自身の手でシステムをノーコード開発して使いこなすことができるという手軽さを実感することができました」(植松氏)
こうして導入プロセスをスムーズに進めることのできたJALインフォテックでは、2023年7月にJSMの本番稼働を迎えた
現在、JALグループ全体で約3.5万人のカスタマーに対して、100名程度のエージェントでJSMを運用しており、「ITサポートデスク」「IT駆け込み寺」「JPMSサービスデスク」「グループITインフラ」において、毎日100~200件ほどのリクエストに対応している。
問い合わせ窓口は、フォーム、メール、電話、対面、Web会議の5つのチャネルを用意しているが、どこのチャネルからの問い合わせについても1人のエージェントが対応でき、内容も一元管理されるようになっている。
IT駆け込み寺の運営を担う倉光氏は、「各種サポート窓口をJSMに集約したことで、社員向けのITに関わる相談はすべてITかけこみ寺へと総括することができました。これにより、問い合わせやトラブル対応の迅速化、ナレッジの共有、そして全体的なサービス品質の向上が実現しました」と話す。
2023年10月よりJSMの本番稼働を開始した維持管理チームでも、大きな手応えを感じているという。
「JSMを活用することで、航空機整備システムに関する各種問い合わせや作業依頼に対して、チーム内でのナレッジ共有を促進することができています。我々が管理するような航空機の安全に直結するシステムの維持管理においては、JSMが可能とする密なコミュニケーションや効率的な管理は特に重要であると実感しています」(植松氏)
JALインフォテックでは、今後は対象となるシステムを拡大していく構えだ。
「スモールスタートのアプローチをとったことで、速やかな導入と、メリットの早期明確化を行うことができました。これを受けて、他のシステムへのJSMの導入も非常に進め易くなりました」(大西氏)
旅客関連のシステムを担当する、JALインフォテック サービス事業本部 ITサービス事業部 旅客サービス部 第1グループ マネージャーの池田 有花氏は、「他チームでの具体的な使い方を参考にしながら、私が担当するツアーシステムでもJSMの検討を始めたところです」と話す。
将来的にJALインフォテックでは、JSMのさらなる活用と拡張を計画している。今後はJSMの持つ自動化機能や今後搭載されるAtlassian Intelligence(AIを用いたバーチャルエージェント等の機能)も活用した、効率的で高度なITSM環境の構築を目指している。
「JSMの導入を通じて、当社はITSMの強化を実現できました。今後もデジタル化を積極的に進め、より良いサービス提供を目指す中で、リックソフトとのパートナーシップには大いに期待しています」(大西氏)
本事例の内容は2023年12月取材時のものです。
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